香希画廊

Art Column

アートコラム

Art Column

第5回「近藤さんが、来た!」

2023年11月01日更新

 オークションカタログをパラパラ捲っていたら瞬間目が捉えるものがあった。頁をもどるとそこに雄渾あざやかに薊を描いた染付の壺があった。不覚にも久しく忘れていた近藤悠三の作品。薊染付花瓶。既にオークションは終了していたが、気になって確認したところ不落札だった。問い合わせるとアフターセールで販売可能だという。コンディションレポートをチェックして特に問題がなさそうなので、思い切って求めることにした。
 見ずに求めたので手にするまで正直多少の不安はあったが、届いた作品は想像どおり、否、想像以上に見事な出来ばえだった。高さ胴径ともに約30センチ。確かな筆致の箱書き、すべてにおいて念には念を入れろとの教えを仕事場の名にしたという「念々洞」の印章。底に呉須で記された落款「悠」から推測して、昭和30年代から40年にかけての制作だろうか、作家50代半ばから還暦を少し過ぎた辺りの作品と思われた。

 秋麗の日々、画廊のウインドウに飾って、外を行きつ戻りつしながら、何度も眺めた。さわやかな生気と力が直に伝わってきて小気味よく、見飽きることがない。
 先ずは鮮やかな呉須の色。作家がよく使った「呉須三昧」の言葉どおり、濃淡いずれもみずみずしく美しい。そしてその呉須による絵の見事なこと。自然の中で凛と咲き立つ薊、染付が陶器の単なる加飾を超え、立体に施された一幅の絵画のようだ。若いころ仕事を手伝った富本憲吉の影響か、徹底した写生から独自の文様を創り出している。限られた同じモティーフで繰り返し制作するが、決してワンパターンにならない不思議。染付の絵は描き直しがきかないから常に一回限りの真剣勝負、まるで書のような絵だ。
 そして器形。12歳から修練した達者なロクロによる堂々としたかたち。今息を吹き込まれ膨らんだかのような生命感に溢れている。肩は力強く張りそれでいてやさしい。取り分け、口作りは品良く自然なバランスで、さりげないおさめ方は絶妙だ。こんなに気持ちのいい作品をここしばらく見たことがなかった。

 今、日本の近代美術の市場が急速に低迷している。日本のみならず、国際的な社会や経済の情勢に巻き込まれざるを得ない複雑な問題もあるだろう。現代アートに席捲されたとの見方もあるが、いずれも理由にあたらない。目でなく耳で物を買う人が多くなった。畢竟、本物と似非との見分けがつかなくなってしまったのではないかと思う。時代が目まぐるしく変化し、常識も変わりゆく、時折その変化の早さに唖然とさせられることがある。
 ほんの30年ほど前には、自己をけっして目立たせない、自己の美しさを秘して平凡が平凡なままに非凡を成し遂げる作家がいた。そして観ることを知る人がいた。それが今は一体どうなってしまったのか。
 私の好きな薊が風の中にすくっと咲いている染付の、美しい白玉の近藤さんの壺を眺めながら、ではそういうお前はどうなのかと自身に問いかけてみる。途方もない大きな気宇であふれている近藤さんの作品に時々ふれてみては、思案に暮れる毎日である。

▲近藤悠三 「薊 染附花瓶」 共箱
香希画廊
〒930-0077  富山県富山市磯部町2-8-1
TEL076-495-8552
FAX076-491-8508
営業時間:AM10:00~PM:5:00
定休日:水曜・日曜
※展覧会期中
営業時間:AM10:00~PM:6:00
定休日:水曜
|
|
PAGE
TOP